父が旅立ちまして三年、今でも「お悔やみ申し上げます」「残念でしたね」「お淋しいでしょう」とお声がけいただきます。お気持ちは有難いのですが、わたくしの中では一緒に暮らしていたころとまったく変わらず…。今も音楽室から父のピアノが聞こえる気がするし、わたくしのことを見守ってくれている気がするし、一日に何度も「パパ、有難う!」「パパの人生は本当に素晴らしかったね!」と心から言います。
芸術家ですので気難しいところも、怖いところもあり、家族としていつも円満だったわけではないですが、今は先輩として、教師として、人間として、心から敬愛しているのです。
父は「ピアノと音楽教育をとおして、愛と忍耐を学ぼう。そして音楽の素晴らしさと情熱を後進に伝えよう」と思って生まれてきたのではないでしょうか。そしてそれをこれ以上出来ないくらいに立派にやり抜いて、満足してこの世の生を終え旅立ったのです。ですからわたくしも「おめでとう」「素晴らしかったね」「ブラボー」の気持ちしかないのです。
父に限らず人の旅立ちの前は、肉体の衰えや表情の変化が多少はあるものですが、それはその人の人生のほんの一部分。そこに至るまでの間には活気にあふれ輝いた瞬間がたくさんたくさんあったのですから、私たち見送る側は最期の顔ではなく、最高の顔だけを覚えていればよいのではないでしょうか?
体が壊れたから死ぬのではなく、魂が満足したから体を脱ぐのです。十分に愛し、十分に励み、十分に楽しみ、十分に喜び、十分に生きた…そう自分で感じられた時、人は自ら旅立ちを決めます。それがわたくしたちのゴールなのです。
エレガントライフアカデミー代表
原田 章子 Harada Shoko
福岡市に生まれる。福岡雙葉小学校、中学校、高等学校卒業。白百合女子大学文学部、国文学科卒業。
90年代よりテーブルアートを志し、フランス留学。料理学校『コルドン・ブルー』、『リッツ・エスコフィエ』で料理と製菓を学ぶ。公爵夫人マリー・ブランシュ・ドゥ・ブロイユに師事し、フランス食文化史を学ぶ。パリの生花店『コム・オ・ジャルダン』で修業。その後も定期的に渡仏し、同店で研修を受ける。
2015年、母、原田治子逝去に際し、エレガントライフアカデミーの代表に就任。当Blogの執筆も手掛ける。